最近、ふとした瞬間に「そういえば、あののっそりとした大きなカエル、最近見ないな」と感じることはありませんか?かつては身近な水辺や雑木林の周辺で見かけることもあったアズマヒキガエル。姿が減った印象から、「もしかして絶滅危惧種になってしまったのでは?」と心配して検索される方が増えています。
その一方で、北海道などでは「外来種」として扱われ、対策の対象になっている情報に触れて、「守るべきなの?それとも管理(駆除)すべきなの?」と混乱している方もいるかもしれません(参考:外来生物の影響やロードキルが問題になる例(ヤンバルクイナの事例))。
実はこのアズマヒキガエル、住んでいる場所によって「保全の対象」になったり、「侵入拡大を止めるべき対象」になったりします。つまり、同じ名前の生き物でも、“どこにいる個体群か”で社会的な扱いが変わるという状況に置かれているんです。この二面性こそが、私たちを悩ませる最大の原因ですね。

さらに、もし遭遇した場合、捕まえて飼育しても法律的に問題ないのか、毒の危険性はどうなのかといった疑問も尽きません。この記事では、地域によって全く異なる「アズマヒキガエルの正解」について、公開されている行政資料や研究発表などを踏まえて、ポイントを整理していきます。
- アズマヒキガエルが絶滅危惧種として指定されている具体的な地域とその深刻な理由
- 北海道や佐渡島などで指定外来種として扱われる背景にある、衝撃的な生態系への影響
- 都市部でひっそりとカエルたちを死に追いやっている、意外な「現代の罠」と側溝問題
- 毒性への正しい対処法や、飼育・販売に関する法的ルールと市場価格の相場
アズマヒキガエルの絶滅危惧種指定と減少の理由
「ガマの油」売りなどの口上で古くから親しまれてきたヒキガエル。あの愛嬌のある姿は日本の原風景の一部とも言えますが、現代においては、その風景自体が急速に失われつつあります。
実際にどれくらい減っているのか、そしてなぜ減ってしまったのか。まずは「守るべき存在」としてのアズマヒキガエルに焦点を当てて、その実態を見ていきましょう。
- 都道府県別レッドデータブックの評価
- 東京都における個体数減少の背景
- 側溝への転落による死亡リスク
- 大阪など分布西限での生息状況
- 生息地保全に向けた対策と課題
都道府県別レッドデータブックの評価

生き物の危機レベルを知るための代表的な指標として、各自治体が公表している「レッドデータブック(レッドリスト)」があります。全国一律で「絶滅危惧」と決まるのではなく、地域の生息状況に応じて評価が分かれるのが重要なポイントです(参考:絶滅危惧種の意味とレッドリストの基本的な見方)。
特に都市部周辺では、生息地の分断や繁殖地の減少などにより、すでに「普通にいる生き物」ではなくなっている地域も出ています。以下に、主要な地域における指定状況をまとめました(※自治体によってカテゴリ名称が異なるため、表記は各公表資料に合わせています)。
| 地域ブロック | 都道府県・エリア | カテゴリ(ランク) | 状況の目安と詳細 |
|---|---|---|---|
| 関東 | 東京都(区部) | 絶滅危惧II類 (VU) | 繁殖地の減少や生息環境の孤立化が続き、危機度が高い |
| 東京都(多摩) | 絶滅危惧II類 (VU) | 北多摩・南多摩はVU評価。西多摩は準絶滅危惧(NT)評価で、同じ多摩でも差がある | |
| 埼玉県 | 準絶滅危惧 (NT) | 現時点では絶滅危険度が直ちに最大ではないが、減少要因が続くと移行する可能性 | |
| 千葉県 | 要保護生物 (C) | 分布の縮小・生息地の悪化が懸念され、当面は保護の配慮が必要 | |
| 近畿 | 大阪府 | (評価対象外/評価情報が限定的) | 府内は主にニホンヒキガエルの記録が中心で、アズマヒキガエルは局地的記録にとどまりやすい |
| 京都府 | 準絶滅危惧 (NT) | 分布の西限域に近く、かつて普通に見られた場所でも減少が指摘されている | |
| 滋賀県 | 準絶滅危惧 | 県の区分では「希少種」扱い(準絶滅危惧相当)となり、地域個体群の維持に配慮が必要 |
表にある「絶滅危惧II類 (VU)」は、近い将来に地域内で絶滅する危険性が高いことを示します。一方で、自治体によっては「希少種」「要注目種」「要保護生物」など独自カテゴリを採用していることもあり、“名称”よりも“その自治体が示す危機度の説明”を併せて読むのが大切です。なお、国(環境省)のレッドリストではアズマヒキガエルが全国一律で絶滅危惧に入っていない場合でも、都市部などでは地域個体群が厳しく評価されることがあります。
東京都における個体数減少の背景
日本の首都であり、世界有数のメガシティである東京。ここでアズマヒキガエルが「絶滅危惧II類」として評価されている地域があるという事実は、都市の生物多様性における大きな警告と言えます。
減少要因として特に重いのは、「土の地面」と「繁殖できる水辺」の減少・分断です。アズマヒキガエルは繁殖期に池・湿地・水たまりなどへ集まりますが、繁殖期以外は林床や社寺林、草地などの湿り気のある場所で生活します。つまり、「暮らす場所」と「産む場所」を行き来できることが前提の生き物なんです。
ところが都市化により、産卵場所になり得る止水環境が減り、緑地が小さく孤立し、移動経路も道路や宅地で寸断されました。さらに東京では、近縁種(西日本側のニホンヒキガエル)との交雑が課題として指摘されており、地域個体群の保全をより難しくしています。
こうした状況を受け、都立動物園・水族園(葛西臨海水族園など)では、都内の両生類をテーマにした展示・普及に加え、飼育下での維持・繁殖に取り組む事例も公表されています。野外の環境そのものを回復させない限り根本解決にはなりませんが、“いま残っている系統を守る”という観点では重要な取り組みです。
側溝への転落による死亡リスク

都市開発の影響は、単に森や池がなくなるだけではありません。住宅地や里山に張り巡らされた道路の側溝(U字溝)が、アズマヒキガエルにとっての「脱出しにくい罠」になっていることは、複数の自治体資料でも脅威要因として挙げられています(参考:U字溝への落下が減少要因になる例(ミズカマキリの事例))。
カエルというと「ジャンプが得意」というイメージがあるかもしれませんが、アズマヒキガエルは成体が大きく、移動は歩行が中心です(跳ねて移動することは少ないと説明されることもあります)。そのため、ツルツルした壁面や垂直に近い構造は特に苦手になりやすいのです。
【90度の絶壁と30度の限界】
コンクリート製のU字溝は、壁が垂直(90度)に近く、表面も滑りやすいことが多いです。こうした構造に落ちると、脱出できずに溝内を移動し続け、乾燥や衰弱で命を落とすリスクが高まります。
対策として現場でよく採用されるのが、溝内に緩い勾配(例:30度前後以下を目安)のスロープや足がかりを設置する方法です。重要なのは「角度の数値」よりも、滑らずに登れる“材質・足場”を確保することだと考えると分かりやすいでしょう。
私たちにできること
一部の自治体や団体では、既存の側溝にスロープ(脱出装置)を設置する取り組みが行われています。もし自宅周辺で溝への転落が頻発しているなら、道路管理者(市区町村や都道府県など)に相談し、対策の可否を確認するのも一つの手です。個人で行う場合も、安全面と管理者の許可には十分注意してください。
大阪など分布西限での生息状況
視野を西日本に向けてみましょう。アズマヒキガエル(Bufo japonicus formosus)は主に東日本側に分布し、西日本側には近縁のニホンヒキガエル(Bufo japonicus japonicus)が分布します。近畿地方は、その境界(あるいは近接域)になり得る地域です。
生物学的に、分布域の端(エッジ)に近い個体群は、環境変化の影響を受けやすく、局地的な消失が起こりやすい傾向があります。京都府などで減少が指摘される背景には、こうした地理条件に加え、道路整備や繁殖地の改変といった人為影響が重なっている可能性があります。
一方で、大阪府では記録の中心がニホンヒキガエルであり、アズマヒキガエルは局地的な記録に限られるとされることがあります。このように、近畿圏では「どちらの系統(種・亜種)を指しているのか」が混同されやすいため、地域の資料では学名や扱いを確認することが大切です。
生息地保全に向けた対策と課題
では、絶滅の危機に瀕する地域個体群を守るために、具体的に何ができるのでしょうか。重要なのは、「点」ではなく「線」での保全です。
いくら立派な池(点)を残しても、そこにたどり着くまでの道が遮断されていては繁殖は続きません。森と水辺、緑地と緑地をつなぐエコロジカル・ネットワークの確保が必要です。
- 公園や緑地において、落ち葉を掃除しすぎず、隠れ場所になり得る環境を一定残す。
- 道路や側溝の設計段階で、小動物が移動・脱出できる構造(スロープ等)を組み込む。
- 家庭菜園などで強力な農薬の使用を控え、餌資源や土壌環境への影響を減らす。
私たち一般市民のレベルでも、身近な緑地や水辺の維持に関心を持ち、地域の保全活動に参加することは大きな力になります。
アズマヒキガエルは絶滅危惧種であり外来種
さて、ここからは視点を180度転換します。「かわいそうな絶滅危惧種」という顔を持つ一方で、場所が変われば彼らは「侵入拡大を止めるべき外来種」になります。
同じカエルであるにもかかわらず、なぜこれほどまでに扱いが異なるのでしょうか。その背景には、人為的な移動と、地域生態系のバランスがあります。
- 北海道で指定外来種になった理由
- 毒を持つ生態と天敵との関係
- 飼育や販売における法的な規制
- 生体の販売値段と流通の現状
- アズマヒキガエルは絶滅危惧種として守るべきか
北海道で指定外来種になった理由

北海道では、アズマヒキガエルは本来分布していない「国内外来種」として扱われています。北海道内での目撃・捕獲情報が増えたことを受け、北海道は2015年12月に、北海道生物の多様性の保全等に関する条例に基づく「指定外来種」に指定しています。
この指定は、これ以上生息域が拡大しないよう取り組むためのもので、繁殖期に水辺へ集結する生態を利用した目撃情報の収集なども行われています。(出典:北海道『アズマヒキガエル(指定外来種)』)
また、北海道の資料では、成体が大きく動きが遅いこと、跳ねて移動することが少ないこと、繁殖期が概ね4月末〜5月であることなど、現場の対策に直結する特徴も整理されています。
北海道における厳しい規制
北海道では、指定外来種として拡散防止の考え方が明確に示されており、「かわいそうだから」といって別の場所へ放す行為は、拡散リスクを高める行為になります。もし捕獲・目撃した場合は、地域のルールや自治体の案内に従い、安易に移動させないことが重要です。
北海道のように、もともといなかった地域に定着すると、餌資源の競合や捕食などを通じて在来生物へ影響が及ぶ可能性があります。特に、繁殖地が同じ水辺に重なりやすい両生類は、生態系のつながりの中で影響が連鎖しやすい点に注意が必要です。
毒を持つ生態と天敵との関係
アズマヒキガエルを語る上で外せないのが、彼らが持つ「毒」の存在です。目の後ろにある大きな「耳腺(じせん)」や背中のイボから、白い粘液状の毒を分泌します。人が触った手で目や口などの粘膜に触れると、痛み・違和感・吐き気などにつながることがあるため、基本は素手で触らないのが安全です。
本州の自然界では、この毒を持つヒキガエル類を捕食し、毒成分を自分の防御に利用することで知られるヤマカガシがいます。こうした「餌の毒を利用する」関係は、地域の生態系の中で長く形成されてきたものです。

一方で、ヒキガエル類が本来いなかった地域に新たに侵入すると、捕食者側の防御や行動にも変化が起こり得ます。例えば佐渡島では、1964年にアズマヒキガエルが持ち込まれ、現在は島南西部に定着しているとされます。研究発表では、ヒキガエル未侵入地域のヤマカガシでは頸腺毒が検出されなかったのに対し、侵入地域では頸腺毒が検出された個体が多く、対捕食者行動にも違いが見られた可能性が示されています。外来種の影響は「食べる・食べられる」だけでなく、こうした化学的なつながりまで含めて連鎖し得る点が重要です。
飼育や販売における法的な規制

ここまで読まれて、「じゃあ、アズマヒキガエルを飼うことは法的にどうなの?」と気になった方もいるでしょう。
結論として、アズマヒキガエルは国の「特定外来生物」に一律指定されている種ではないため、一般論として“飼育や売買”が直ちに全国一律で違法になるタイプではありません。ただし、これは「何をしてもいい」という意味ではありません。
注意すべきなのは、「条例」や地域ルール、そして“拡散させない責任”です。地域によっては指定外来種として扱われるため、移動や放出が重大な問題になります。また、自然公園・保護区・天然記念物指定地など、場所によって別の規制が重なるケースもあります。
| 項目 | 本州(一般的な地域) | 北海道(指定外来種) |
|---|---|---|
| 飼育 | 可能(地域の採集規制や保護区のルールは要確認) | 安易に飼育せず、自治体の案内に従うことが望ましい(逸出させない管理が前提) |
| 野外への放出 | マナーとしてNG(遺伝子攪乱や分布拡大の原因になる) | 拡散防止の観点から厳に避けるべき行為 |
| 販売・譲渡 | 可能なケースが多いが、購入後の逸出・遺棄は厳禁 | 流通させる場合も拡散防止の説明・管理が重要(送り先地域の扱い確認は必須) |
特に「逃がす」「移す」「放す」は、地域個体群の保全(遺伝的攪乱)にも、外来種問題(分布拡大)にも直結します。飼うなら、絶対に逸出しない設備と、最後まで飼い切る覚悟が必要です。
生体の販売値段と流通の現状
意外に思われるかもしれませんが、アズマヒキガエルはペット(テラリウムの住人)として一定の人気があり、市場で流通することがあります。
取引価格は出品内容(サイズ・産地表示・色彩傾向・季節・送料条件など)で変動しますが、一般的には数千円前後での出品・販売例が見られます。珍しい体色や大型個体など、条件が付くと高値になることもあります。
ただし、購入する場合も捕獲する場合も、絶対に守らなければならないルールがあります。それは「死ぬまで面倒を見る(終生飼育)」ことです。「飽きたから近所の山に逃がそう」という行為は、遺伝子攪乱や新たな外来種問題の引き金になります。飼うと決めたら、その命と地域の自然環境に対して責任を持つ。これが飼育者の最低限の義務です。
アズマヒキガエルは絶滅危惧種として守るべきか
最後に、これまでの話をまとめて、私たちがこのカエルとどう向き合うべきかを考えましょう。
アズマヒキガエルは、「本来の生息地で減っている地域では守り、侵入した地域では拡散を止める」という、地域ごとの正しい対応が求められる生き物です。

記事のまとめ
- 東京など都市部の一部では、生息環境の減少・分断や繁殖地の消失により危機度が高く、保全が必要。
- 北海道や佐渡島などでは、もともといなかった地域に持ち込まれた国内外来種として、生態系への影響が懸念され、拡散防止が重要。
- 減少の大きな原因の一つとして、U字溝など「脱出しにくい人工構造物」が脅威要因として挙げられている地域がある。
- 飼育自体は一律違法とは限らないが、地域ごとの扱い(特に指定外来種地域)を確認し、野外放出は絶対に行わない。
「アズマ ヒキガエル 絶滅危惧種」と検索してたどり着いたあなたが、今住んでいる場所が「守るべき場所」なのか「拡散を止めるべき場所」なのかを知り、それぞれの立場でできる行動を選べるようになれば嬉しいです。カエルたちにとっても、私たち人間にとっても、それが一番の共存の形に近づくはずです。

