西表島にだけ住んでいる特別な猫、イリオモテヤマネコ。
ニュースやSNSでその名前を聞くたびに、どうしても気になってしまうのが絶滅危惧種という言葉ですよね(絶滅危惧種という言葉の意味を整理した解説)。
あんなに可愛らしくて、島のシンボルでもある彼らが、なぜ絶滅の危機に瀕しているのでしょうか。その原因を調べてみると、交通事故や開発、外来種の問題など、私たち人間が関わっている部分が非常に多いことに驚かされます。
この記事では、イリオモテヤマネコを絶滅の淵に追いやっている原因について、私なりに調べてまとめたことをシェアします。現状を知ることで、私たちができる対策や保護の未来について一緒に考えていければ嬉しいです。
- イリオモテヤマネコを脅かす最大の直接的原因である交通事故の実態
- リゾート開発や観光客の増加が生息環境に与えている複雑な影響
- ノヤギやノネコといった外来種が引き起こす生態系へのリスク
- 絶滅を回避するために行われている具体的な保護対策と成果
イリオモテヤマネコが絶滅危惧種となった原因の全貌
まずは、なぜここまで数が減ってしまったのか、その具体的な原因について深掘りしていきましょう。イリオモテヤマネコが追い詰められている背景には、たった一つの理由ではなく、島の環境変化や人間社会との関わりなど、いくつもの要素が複雑に絡み合っている現実があります。
- ロードキル等の交通事故の多発
- リゾート開発による生息地の分断
- ノヤギやノネコ等の外来種問題
- 観光客増加とオーバーツーリズム
- 低地選好性と行動圏のリスク
ロードキル等の交通事故の多発

一番ショッキングで、かつ個体数減少に直結している深刻な原因が「ロードキル」、つまり交通事故です。イリオモテヤマネコは基本的に夜行性で、朝と夕方にも活動のピークがあるとされています。餌を求めて道路付近まで移動することもあり、特に雨上がりなどはカエル類やカニ類などが路上に出ることがあるため、それらを狙ったヤマネコが道路へ近づいてしまうケースが起こり得ます。
西表島には生活道路としての県道が通っていますが、ここで問題になりやすいのが速度です。島内の制限速度は基本的に40km/h、集落など一部区間は30km/hとされており、速度超過はロードキルのリスクを大きく高めます。突然暗闇から出てくる小さな動物を、スピードが出た状態で避けるのは至難の業です。
致死率の高さに注目
1978年から2025年8月2日までの記録では、累計で102件の交通事故が発生しており、そのうち94件でヤマネコの死亡が確認されています。つまり、事故に遭えば命を落としてしまう割合が非常に高い、というのが残酷な現実です。
特にドライバーが注意しなければならないのは、季節によるリスク変動です。春から夏にかけての繁殖・子育て期には親子連れの目撃が増えることがあり、また若い個体が行動範囲を広げる時期には、経験の浅いヤマネコが不用意に道路へ出てしまうリスクも高まります。レンタカーを利用する観光客はもちろん、夜間の運転に慣れている地元の方や業務車両も含め、島全体での意識改革が求められている課題です。
リゾート開発による生息地の分断
次に無視できないのが、大規模なリゾート開発による影響です。西表島は広大な自然林に覆われていますが、人間が生活しやすく、また観光施設を作りやすいのは、どうしても海岸沿いの平らな場所に集中してしまいます。しかし、イリオモテヤマネコは島の低地部や湿地、河川・沢沿いなどもよく利用するとされ、低地の環境は彼らにとっても重要な生活エリアです。
過去には「トゥドゥマリ浜(月が浜)」周辺でのリゾート施設の建設を巡り、開発と保全の間で議論や法的手続きも含む論争が起きたことがあります。こうした大規模な施設の建設は、生息地を物理的に改変するだけでなく、道路の新設・拡幅、夜間照明(光害)、騒音、人の往来の増加などを通じて、これまで連続していた森や水辺環境を分断しやすくなります。
森が分断されると、ヤマネコたちは餌場への移動ルートに制約が出たり、繁殖相手と出会う機会が減ったりする可能性があります。開発によって便利になる一方で、彼らの「住み処」としての質が下がり得る点は忘れてはいけません。
ノヤギやノネコ等の外来種問題

外からの侵入者、いわゆる「外来種」も大きな脅威になっています。ここで問題視されているのは、野生化したヤギ(ノヤギ)や、飼い主のいない猫(ノネコ)です。彼らは本来、西表島の生態系には存在しなかった動物たちです。
| 外来種の種類 | 生態系への具体的な悪影響 |
|---|---|
| ノヤギ(野生化ヤギ) | 下草や稚樹の採食が進むと、植生が弱り、土壌が露出して侵食が起きやすくなります。結果として、森の下層環境が変化し、ヤマネコの餌となる小動物の生息環境にも影響が及ぶ可能性があります。 |
| ノネコ(野生化ネコ) | ヤマネコと獲物が重なることで「餌のライバル」になり得るほか、特に警戒されるのが感染症の媒介です。猫免疫不全ウイルス(FIV)やネコ白血病ウイルス(FeLV)などは、感染源がイエネコであることが報告されており、島内の小さな個体群に広がると影響が大きくなり得ます。 |
特に感染症のリスクは、時限爆弾のような怖さがあります。イリオモテヤマネコは「島内に限られた個体群」であるため、感染症が持ち込まれて広がった場合、個体群全体に与えるダメージが大きくなりやすいのが問題です。「たかが飼い猫の病気」では済まされない、種の存続に関わる重大な問題なのです。
観光客増加とオーバーツーリズム
2021年に世界自然遺産に登録されたことで西表島への注目度は高まりました。一方で、入域者数は年によって増減があり、感染症流行期の影響で大きく落ち込んだ年もあります。そのため「登録後ずっと右肩上がり」と言い切るのではなく、注目度の上昇により、今後の増加(特に急増)が起きた場合に、環境・社会への影響をどう抑えるかという観点で、オーバーツーリズム(観光公害)が懸念されています。
以前なら人間が立ち入らなかったようなエリアまで、カヌーやトレッキングの利用が広がると、ヤマネコが安心して休息したり、狩りをしたりできる場所への圧力が増える可能性があります。これを専門用語で「人為的撹乱」と言いますが、要するに「人間がウロウロすることでヤマネコが落ち着いて暮らせなくなる」ということです。
また、ゴミ処理や生活排水など、島のインフラに負荷がかかりやすい点も含め、観光と自然保護のバランスをどう取るかが、今まさに問われています(水路環境の変化で地域絶滅に至ったミズカマキリの事例)。
低地選好性と行動圏のリスク
これはヤマネコ自身の生態的な特徴に関わる話ですが、彼らは島の低地部の湿地、河川・沢沿いなどをよく利用するとされています。一般的に野生動物は人間を避けて山奥に逃げ込むイメージがありますが、イリオモテヤマネコの場合は、低地の環境も生活に深く関わっています。
彼らの餌は小型哺乳類、鳥類、爬虫類、カエル類、昆虫類など多様で、こうした獲物が見つかりやすい環境の一つが低地の水辺や林縁部です。そのため、ヤマネコも必然的に低地を生活の拠点として利用しやすくなります。
避けて通れない「場所の重複」

つまり、「ヤマネコがよく利用する場所」と「人間が道路・集落・施設を置きやすい場所」が重なりやすいのです。これが、交通事故や生息地分断が起きやすい背景にあり、ヤマネコが絶滅の危機に瀕しやすい構造的な弱点とも言えます。
イリオモテヤマネコの絶滅危惧種原因に対する対策
ここまで、ヤマネコを追い詰める原因について見てきましたが、もちろん私たち人間もただ見ているだけではありません。行政、研究者、そして地域住民が一丸となって、彼らを守るための様々な対策に取り組んでいます。
- 現在の個体数と減少の推移
- 絶滅危惧IA類への指定背景
- 交通事故ゼロへの取り組み成果
- エコツーリズムと保護の未来
- イリオモテヤマネコの絶滅危惧種原因と今後
現在の個体数と減少の推移

現在、イリオモテヤマネコの推定生息数は、環境省の整理では100~109頭(平成17年~19年度の第4次総合調査)とされています。この数字は調査時点・手法によって揺れ得ますが、少数の個体群であること自体が大きなリスク要因です。
個体数が少ないということは、それだけ遺伝子の多様性が失われやすく、近親交配のリスクや、感染症が広がった際に影響が大きくなりやすいことを意味します。生息環境の変化や交通事故が積み重なると、回復が難しくなる点にも注意が必要です。
絶滅危惧IA類への指定背景
こうした状況を受けて、環境省のレッドリストでは、イリオモテヤマネコを「絶滅危惧IA類(CR)」に位置づけています。これは「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」とされる、最も深刻なランクです。
2007年のレッドリスト見直しのタイミングで、危機の深刻さがより強く反映される形で整理が進みました。これは、保護活動の強化や、対策の優先度を高めるための重要なシグナルでもあります。
交通事故ゼロへの取り組み成果

暗いニュースが多い中で、希望の光となる成果も出ています。交通事故対策の積み重ねにより、2023年(令和5年)は「確認された交通事故件数0件」となりました(ただし、同様に0件だった年が過去にもあるため、「○年ぶり」と断定せず、継続的な達成が重要だと捉えるのが現実的です)。
これは偶然の結果ではありません。環境省や沖縄県、竹富町が連携し、以下のような地道な対策を積み重ねてきた成果です。なお、フェンスやアンダーパスの仕組み自体は、同じくロードキル対策が進む他地域でも共通する考え方なので、イメージを掴みたい方はフェンスやアンダーパスなどのロードキル対策の仕組みも参考になります。
主な交通事故防止対策

- アンダーパスの設置:道路の下にヤマネコが通れる通路を設け、道路を横断せずに移動できるルートを確保しました。
- 侵入防止柵の設置:事故が多発する「ホットスポット」と呼ばれる場所に柵を設け、ヤマネコが道路に出にくい構造を作っています。
- 道路環境の整備:道路脇の草刈りを行い、ドライバーからの視認性を高め、飛び出しの早期発見につなげています。
さらに最近では、スマートフォンアプリ「西表島 yuriCargo(ゆりかご)」を活用し、速度超過などの運転傾向をもとに運転をスコア化して安全運転意識を高める取り組みも行われています。
(出典:西表野生生物保護センター『イリオモテヤマネコの事故件数』)
エコツーリズムと保護の未来
これからの西表島で鍵を握るのが、「エコツーリズム」の推進です。これは、自然環境を単なる観光資源として消費するのではなく、環境への負荷を最小限に抑えながら、その価値を学び、収益を自然保護に還元していく仕組みのことです。

具体的には、特定のエリアへの立入り人数を制限する「利用人数制限(キャップ)」や、手続き上、認定ガイド等の関与が必要となるルールが整備されており、たとえば2025年3月1日からは、島内の一部フィールドで人数制限を前提とした運用が始まっています。
また、星野リゾートなどの民間企業も、自社として「日本初のエコツーリズムリゾートを目指す」と表明し、ロードキル防止の啓発活動や使い捨てプラスチック削減などに取り組んでいるとされています。
観光客が来ることで自然が壊れるのではなく、観光客がルールを守って訪れ、その収益や関わりが保護活動に活かされ、結果として自然が守られる。そんな好循環を作ることが、未来の西表島のスタンダードになろうとしています。
イリオモテヤマネコの絶滅危惧種原因と今後
イリオモテヤマネコが絶滅の危機にある原因は、決して彼らが弱いからではありません。彼らがよく利用する「低地」という環境が、私たち人間にとっても道路や集落、施設を置きやすい場所であるために起きてしまった、不幸な衝突の結果です。
しかし、原因が人間の活動と重なっているのなら、解決できるのもまた人間だけです。「確認された事故0件」の達成が示したように、正しい知識を持ち、適切な行動をとれば、共生の道は開けます。現地に行かなくても、こうして現状を知り、関心を持ち続けることが、彼らを守る大きな力になります。

私たちにできること
もし西表島を訪れる機会があれば、レンタカーの速度は控えめに(制限速度の遵守を徹底)。そして、野生動物を見かけても決して餌を与えたりせず、遠くから静かに見守る姿勢を忘れないでください。その小さな配慮が、100年後もこの島にヤマネコがいる未来へと繋がっています。

