テレビやネットのニュースで「ウミガメが減っている」という話題を目にして、なぜ彼らが絶滅の危機に瀕しているのか気になったことはありませんか。
数億年にわたって地球の海で命をつないできたウミガメが、近代以降の人間活動の影響を強く受け、地域によって急速に減少している背景には、私たちの暮らしと密接に関わる複数の要因が重なっています。
日本近海で見られる種類やその生態、そしてプラスチックゴミや地球温暖化といった環境問題が具体的にどう影響しているのかを知ることは、彼らを守るための第一歩です。
この記事では、ウミガメが直面している厳しい現実と、私たちが今日からできる身近なアクションについて、分かりやすく解説していきます。
- ウミガメが減少している主な原因である産卵場所の消失や混獲の実態
- 日本で見られるウミガメの種類とそれぞれの絶滅危惧ランクの違い
- 地球温暖化がウミガメの性別に与える意外な影響と繁殖へのリスク
- サステナブルなシーフードの選択など個人レベルで実践できる保全活動

ウミガメが絶滅危惧種なのはなぜ?主な3つの原因
ウミガメが絶滅の危機に瀕している理由は一つではありません。人間による沿岸部の開発、漁業などの経済活動、そして地球規模での環境変化が複合的に重なり合い、彼らを追い詰めています。特に日本列島は、北太平洋のアカウミガメ(ロガーヘッド)の主要な産卵地として知られ、北太平洋全体の保全において日本の海岸環境が重要な意味を持ちます。ここでは、特に影響が大きいと考えられる要因を掘り下げて見ていきましょう。
- 日本で見られる種類とレッドリストの評価ランク
- 護岸工事で砂浜が減少し産卵場所が奪われる
- 漁業の網による混獲が減少の大きな要因
- 街灯の光害や漂着ゴミが子ガメに与える影響
- 地球温暖化でメス化が進み繁殖が困難になる理由
- 親になる確率が低いという生物としての脆弱性
日本で見られる種類とレッドリストの評価ランク
まず、日本近海にはどのようなウミガメがいて、それぞれどの程度危機的な状況にあるのかを整理しておきましょう。私たちが普段「ウミガメ」とひとくくりに呼んでいるものにも、実はいくつかの種類があり、それぞれの置かれている状況は異なります。
国際的な自然保護機関であるIUCN(国際自然保護連合)と、日本の環境省では、評価の対象(世界全体か、国内の状況か)や評価単位(種全体か、地域・個体群か)などが異なるため、ランク付けが一致しないことがあります。たとえば、世界的には保全の成果が出ている地域があっても、日本周辺の個体群に限ると脅威が強い場合、国内の評価がより厳しくなることがあります。レッドリストの区分そのもの(CR/EN/VUなど)の考え方をもう少し整理したい場合は、絶滅危惧種とは何かとレッドリストの見方(スズメの例)も参考になります。

| 種名 | 環境省レッドリスト | 主な特徴と現状 |
|---|---|---|
| アカウミガメ | 絶滅危惧IB類 (EN) | 北太平洋では日本列島が主要な産卵地として知られ、産卵地の保全の優先度が高い。産卵期の砂浜環境(上陸のしやすさ・光害・人の利用状況など)が繁殖成功に直結する。 |
| アオウミガメ | 絶滅危惧II類 (VU) | 小笠原諸島などで長期的な保全の成果が見られる例もある一方、地域によって脅威の強さは異なり、漂着・混獲・海洋ごみなどの影響を受け続けている。 |
| タイマイ | 絶滅危惧IB類 (EN) | 主にサンゴ礁域で見られる。歴史的に「べっ甲」目的の捕獲圧が大きかったことに加え、現在も生息地の悪化や混獲などの複合的な要因で厳しい状況が続く。 |
レッドリストのランクについて
環境省のカテゴリーにおいて、「絶滅危惧IB類 (EN)」は、野生での絶滅の危険性が高いものを指します(絶滅危惧IA類 (CR) に次いでリスクが高い区分です)。一方、「絶滅危惧II類 (VU)」は、絶滅の危険が増大している種を指します。(出典:環境省『環境省レッドリスト2020』)
特に注目したいのは、都道府県レベルでの評価です。分布の北限に近い地域や、産卵・上陸が確認される特定の海岸では、国の評価とは別に、地域の実情に応じてより厳しいカテゴリ(例:絶滅危惧I類相当)に位置付けられていることがあります。これは、地域ごとの環境変化や人為的影響が強い場所があることを示唆しており、日本全体で一律の対策をするだけでは不十分になり得ることを物語っています。
護岸工事で砂浜が減少し産卵場所が奪われる
ウミガメにとって最大の問題の一つが、「卵を産むための砂浜が物理的に減っている」という問題です。これを専門用語で「海浜消失」と呼び、自然の侵食だけでなく、人間活動による海岸改変や土砂供給の変化が関わることも多いとされています。生息地を支える環境が「構造そのもの」で変わってしまう点は、海の生き物に限らず共通課題で、人工構造物が生物に与える影響の具体例としては、ミズカマキリが減少した理由に見る生息地改変と人工構造物の影響も理解の助けになります。

ウミガメは産卵の際、波打ち際からある程度離れた、適切な深さと広さがある砂浜を必要とします。しかし、海岸線の護岸や消波ブロックの設置が進むと、上陸や産卵に必要な環境が損なわれ、以下のような事態が起きやすくなります。
砂浜減少のメカニズムとウミガメへの影響
- 上陸できない物理的障壁:護岸や消波ブロックが壁となり、ウミガメが産卵に適した砂浜の奥(より安全な場所)まで進みにくくなります。
- 砂の供給バランスの変化:砂浜の砂は川や沿岸流で補給されますが、上流域の治水・利水施設、河川改修、海岸構造物などによって土砂移動のバランスが変わると、砂浜が痩せていく要因になり得ます。
- 低地産卵によるリスク増大:奥へ進めない場合、波打ち際に近い場所で産卵せざるを得ず、満潮や高波、豪雨などで卵が水没したり流失したりするリスクが高まります。
実際に、各地で砂浜の侵食が進み、かつて産卵が見られた場所で砂が減って岩盤が露出するなど、産卵環境が大きく変化した例も報告されています。私たちの暮らしを波から守るための防災工事が、結果として産卵地の質を下げてしまうこともあるため、防災と生態系保全の両立を意識した海岸管理が重要になります。
漁業の網による混獲が減少の大きな要因
砂浜の問題が「生まれる前後の危機」だとすれば、大人のウミガメを襲う直接的な危機が、漁業による「混獲(こんかく)」です。混獲とは、漁師さんが魚を獲るために仕掛けた漁具に、意図せずウミガメが入って絡まってしまう事故のことを指します。
「カメは海で暮らしているから大丈夫なんじゃない?」と思われるかもしれませんが、ウミガメは私たちと同じ肺呼吸をする生き物です。漁具に絡まって水面に上がれない状態が続くと、呼吸ができずに衰弱・死亡することがあります。また、脱出できたとしても、外傷や体力消耗がその後の生存に影響する可能性があります。

特に影響が大きい漁法
日本近海では、漁具の種類や海域によって混獲リスクが異なりますが、刺し網や定置網などで混獲が課題として挙げられることがあります。
- 刺し網:魚の通り道にカーテンのような網を仕掛ける漁法です。ウミガメの前肢などが網目に絡むと、もがくほど締め付けられやすく、脱出が難しくなる場合があります。
- 定置網:網の構造や設置水深によっては、迷い込んだウミガメが出口を見つけにくく、息継ぎしにくい状況になることがあります。近年は、ウミガメが自発的に脱出できる装置の研究開発も進められています。
国内でも漂着個体の調査や、漁業現場での混獲記録の収集が行われており、漁具との関わりが疑われる事例が確認されています。もちろん、漁師さんもウミガメを傷つけたいわけではありません。だからこそ、現場の実態に即した「混獲を減らす工夫(漁具改良・操業方法の調整・放流手順の共有など)」を、対立ではなく協力で積み上げていくことが重要です。
街灯の光害や漂着ゴミが子ガメに与える影響
仮に無事に卵から孵化できたとしても、海へ旅立つ子ガメたちには、人間社会が作り出した罠が待ち受けています。その代表的なものが「光害(ひかりがい)」です。
生まれたばかりの子ガメは、本能的に「水平線側の明るさ」へ進む性質(走光性)を持っています。自然条件では、夜の海面が星や月の光を反射して相対的に明るく見えやすいからです。しかし、現代の海岸では、背後に道路の街灯、自動販売機、建物の照明などが強く光っていることがあります。
すると子ガメは海の方向を誤認し、陸側へ向かったり、行動が遅れて捕食や乾燥のリスクが高まったりします。その結果、道路での轢死や側溝での閉じ込め、夜明けまでの徘徊による捕食など、人為的要因で生存率が下がることがあります。
また、海に出た後も安心できません。海には大量のプラスチックゴミが漂っています。ウミガメは種類や成長段階によって食べ物が異なりますが、ビニール袋などをクラゲ等の餌と誤って飲み込むことが起き得ます。消化できないゴミが体内に残ると、摂餌が妨げられて衰弱したり、体調を崩したりして命に関わる場合があります。映像で話題になる事例は目立ちますが、海洋ごみ問題が広範囲に影響し得ることを示す一端でもあります。
地球温暖化でメス化が進み繁殖が困難になる理由

近年、さらに深刻な「見えない脅威」として研究が進んでいるのが、地球温暖化の影響です。ウミガメの性別は、哺乳類のように遺伝子で固定されるのではなく、「卵が埋まっている砂の温度」によって左右されます。
これを「温度依存性性決定(TSD)」と呼びます。一般に、温度が高いほどメスが多く、低いほどオスが多くなる傾向があり、境界となる温度(ピボタル温度)は種や個体群によって異なりますが、おおむね29℃前後とされる例が多いです。
温暖化が招く「性比の歪み」
気温や砂浜温度が上がると、孵化個体の性比がメスに大きく偏る可能性があります。実際に、オーストラリアのグレートバリアリーフ北部由来のアオウミガメで、若齢個体の大半がメス(99%超)という報告があり、温暖化と性比の偏りが強く懸念されています。
この状態が長く続くと、将来的に繁殖パートナーとなるオスが不足し、繁殖成功が下がるリスクが高まります。さらに、極端な高温は性比だけでなく、胚の発生そのものや孵化率に影響する可能性も指摘されており、産卵地の環境変化が長期的な個体群維持の不確実性を増しています。
親になる確率が低いという生物としての脆弱性
ここまで様々な外的要因を見てきましたが、そもそもウミガメという生き物は、生物学的に「個体数が回復するまで時間がかかりやすい」特性を持っています。これを専門的には「生活史の脆弱性」と言います。
ウミガメが卵から孵り、大人(成体)になって繁殖できるようになるまでには、種や個体群によって差はあるものの、20年以上かかることがあります。そして、自然界では捕食や環境要因により、卵や子ガメの死亡率が高く、成体まで到達できるのは数百〜数千に1匹程度とされることもあります。
K戦略者に近い特徴
生物学では、ウミガメのように「寿命が長く、成熟までに時間がかかり、成体の生存が個体群維持に大きく寄与する」性質は、K戦略的な特徴として説明されることがあります。こうした特徴をもつ生き物は、成体が減ると回復までに長い時間を要しやすいという弱点があります。
かつては自然界のバランスの中でこの生存率でも成り立っていましたが、ここに人間による「成体の死亡増(混獲など)」や「産卵地の悪化」という急速かつ強い圧力が加わると、回復力が追いつきにくくなります。成体が1匹失われることは、その個体が将来残し得た繁殖機会を失うことにもつながるため、個体群への影響は小さくありません。
ウミガメが絶滅危惧種なのはなぜ?回復への対策
ここまで厳しい現実ばかりを見てきましたが、決して希望がないわけではありません。世界中で、そして日本でも、ウミガメを守るための努力が続けられており、地域や種によっては保全の成果が確認されている例もあります。ここからは、専門家や保護団体だけでなく、私たちが日常生活の中でできる具体的なアクションについて考えてみましょう。
- 一部の地域で個体数が回復している現状とデータ
- 混獲を防ぐサステナブルなシーフードの選び方
- 寄付やグッズ購入で保護団体を支援する方法
- プラスチック削減など私たちにできること
- ウミガメが絶滅危惧種なのはなぜか理解し守ろう
一部の地域で個体数が回復している現状とデータ

「もう手遅れなのでは?」と思うかもしれませんが、適切な保護活動を行えば、ウミガメは回復し得ます。長期の保全活動によって、産卵数が増加傾向を示す地域や、国際的な評価が改善した種も報告されています(ただし、地域差が大きく、すべての個体群が同様に回復しているわけではありません)。
身近な例として、北太平洋のアカウミガメの主要産卵地として知られる鹿児島県の屋久島では、産卵期の見守り、孵化までの保護、光害対策、啓発などの取り組みが長年続けられてきました。産卵数は年ごとの変動があるため短期の増減だけで結論は出せませんが、継続的な保全とモニタリングによって「守れば戻る可能性がある」ことを示す重要な事例の一つです。
もちろん、減少が続く地域もあり、地域ごとの課題(海岸改変、混獲リスク、観光利用、漂着ごみなど)に合わせた対策が欠かせません。それでも、取り組みを積み重ねる価値があることは、多くの保全現場が示しています。
混獲を防ぐサステナブルなシーフードの選び方
私たちが今日スーパーで夕飯の魚を選ぶとき、その選択がウミガメの命を守る方向につながることがあります。「サステナブル・シーフード」という言葉を意識したことはありますか?
これは、海の環境や生態系に配慮して獲られた(または育てられた)水産物のことです。例えば、米国では、エビなどを対象とする一部のトロール漁で、網に入ったウミガメが脱出できる「TED(ウミガメ排除装置)」の装着が制度として求められている海域があり、混獲低減の重要な手段になっています。

日本でも、MSC認証(天然魚)やASC認証(養殖魚)のついた商品を選ぶことで、資源や生態系への配慮を進める漁業・養殖業を後押しできます。「安ければいい」ではなく、「この魚はどうやって獲られた(育てられた)のかな?」と少し想像力を働かせることが、回り回ってウミガメを守る力になります。
寄付やグッズ購入で保護団体を支援する方法
「現地に行って活動するのは難しい…」という方でも、経済的な支援を通じて保全活動の強力なサポーターになることができます。日本にはウミガメの保全に真摯に取り組んでいる団体がいくつかあります。
支援できる団体の例と方法
- 認定NPO法人 エバーラスティング・ネイチャー (ELNA):小笠原やアジア地域、関東などで調査保全活動を行っています。読み終わった本を送ることで寄付につながる仕組み(古本寄付)など、参加しやすい支援方法もあります。
- NPO法人 屋久島うみがめ館:屋久島でのパトロールや生態調査、保護活動を行っています。会員になったり寄付をしたりすることで、現場の活動資金を支えられます。
- 日本ウミガメ協議会:研究・保全・普及啓発を担い、漂着や混獲に関する情報の集約・共有にも取り組んでいます。チャリティーグッズ等の購入が支援につながる取り組みも行われています。
保全活動は、助成金だけでなく寄付や会費によって成り立っている面も大きいです。無理のない範囲で「続けられる形」を選ぶことが、息の長い支援につながります。
プラスチック削減など私たちにできること
最後に、日常生活での小さな心がけです。海に流れ出るプラスチックゴミを減らすために、マイバッグやマイボトルを持ち歩く、ゴミを絶対にポイ捨てしない、地域のビーチクリーンに参加するといった行動は、確実に海の環境改善につながります。

また、もし夏の夜にウミガメが産卵するような砂浜に遊びに行く機会があれば、以下のマナーを徹底してください。野生生物の生息地を訪れる際に「観光者が守るべきルール」を具体例で知りたい場合は、ヤンバルクイナが絶滅危惧種になった理由と観光でできる保護アクションも参考になります。
- 強いライトを使わない:懐中電灯やスマートフォンのライトで海や砂浜を照らさない。母ガメが警戒して上陸をやめたり、子ガメの進行方向を乱したりする原因になります。
- 砂浜に車で乗り入れない:タイヤの跡(わだち)は、小さな子ガメにとって越えにくい障害になり得ます。圧死や行動阻害のリスクもあるため、産卵地周辺では避けるべき行為です。
- 静かに見守る:もし産卵に出会っても、近づきすぎず、静かに見守りましょう。
ウミガメが絶滅危惧種なのはなぜか理解し守ろう

ウミガメが絶滅の危機にある理由は、産卵地の減少、混獲、光害、そして地球温暖化など、その多くが私たちの人間活動に起因しています。特に日本列島は、北太平洋のアカウミガメの主要な産卵地として知られ、国内の海岸環境を守ることが広域的な保全にもつながります。
彼らが直面している危機は非常に深刻ですが、屋久島の例のように、適切な保全活動によって回復の可能性が示されている地域もあります。サステナブルな魚を選ぶこと、プラスチックを減らすこと、そして「なぜ減っているのか」を知り、関心を持ち続けること。これらの一つひとつは小さな行動かもしれませんが、みんなで取り組めば大きな力となって、ウミガメたちがこれからも安心して帰ってこられる豊かな海を守ることができるはずです。

