ジブリ作品の中でも『猫の恩返し』は、その軽快なテンポと不思議な世界観で根強い人気を誇りますが、その中でもひときわ異様な存在感を放っているのが「猫の王様」です。
あのもさもさとした愛嬌のある見た目とは裏腹に、強引でどこか狂気を感じさせる言動に、一度見たら忘れられないインパクトを受けた方も多いのではないでしょうか。
「あの王様のモデルになった猫の種類は何?」「左右で目の色が違うオッドアイにはどんな意味があるの?」「怖いと感じるシーンや都市伝説の真相は?」など、検索窓にキーワードを打ち込みたくなる疑問は尽きません。
この記事では、そんな猫王の知られざるプロフィールや心理、そしてファンの間で囁かれる都市伝説まで、あらゆる角度から徹底的に深掘りしていきます。
- 猫王のモデルとなった猫種「ペルシャ猫」の特徴やオッドアイの意味
- 担当声優である名優・丹波哲郎さんの演技の裏話や強烈な名言
- 物語の中で猫王が見せる「怖い」行動の心理学的分析
- 『耳をすませば』との深いつながりやムタさんとの因縁
猫の恩返しの王様の名前やモデル

まずは、猫の国の絶対的支配者であるこのキャラクターが、具体的にどのような設定で描かれているのか、そのプロフィールから紐解いていきましょう。一見するとただの「変な猫」に見えますが、そのデザインや設定には、制作陣の緻密な計算と遊び心が隠されています。
猫王の名前と担当声優の丹波哲郎
物語の中では本名は明かされず、側近やハルちゃんから単に「王様」あるいは「猫王様」と呼ばれていますが、資料やキャラクター紹介などではキャラクター名として「猫王(ねこおう)」と表記されています。非常にシンプルな呼び名ですが、この名前には「猫の国における絶対唯一の存在」というニュアンスが含まれているように感じます。個体名というより、存在そのものが「王」であるという絶対性です。
そして、このキャラクターの魅力を決定づけたのが、昭和の大スターであり「霊界の宣伝マン」としても知られた名優、丹波哲郎さんの起用です。丹波さんの独特な威圧感と、どこか浮世離れした「抜けた」演技が、猫王というキャラクターに唯一無二の命を吹き込みました。
丹波さんの演技が生んだ「憎めない悪役」
アフレコでは、細かい台本の指示どおりにきっちり演じるというよりも、丹波さんならではのテンポや間、独特のしゃべり方が活かされていると評されます。その結果、猫王はただの恐ろしい独裁者ではなく、どこかトボけた、人間味(猫味?)溢れるキャラクターになりました。
丹波哲郎さんのアドリブ伝説
収録時、丹波さんが台本のセリフを独自のイントネーションで読み上げ、スタッフを驚かせた……といったエピソードも語られています。事実関係の細部はさておき、その「予想外の芝居」こそが、常識が通じない異界の王としてのリアリティを生み出したと言えるでしょう。
王様のモデルの猫種はペルシャ猫

猫王の特徴的な外見――ボサボサの長毛、平たい顔、そしてずんぐりとした体型。これらは特定の猫種をモデルにしていると考えられています。各種解説やファン考察では、最も有力なモデルは「ペルシャ猫」、その中でも特に毛先が銀色や金色に輝く「チンチラシルバー」や「チンチラゴールデン」と呼ばれる種類とされています。
ペルシャ猫は、純血種の中でも歴史の古い猫として知られ、しばしば「猫の王様」と称されるほど、優雅で高貴な猫の代名詞です。ジブリのスタッフは、この「高貴な猫」というイメージをベースにしつつ、あえてそれを崩すことでキャラクターを作り上げたと考えられます。
| 比較項目 | 実際のペルシャ猫(チンチラ) | 劇中の猫王 |
|---|---|---|
| 毛並み | シルクのように柔らかく、美しく手入れされている | 剛毛のように硬そうで、あちこち跳ねて乱れている |
| 体型 | 筋肉質でコンパクト(コビータイプ) | 極度の肥満体で、お腹が地面につきそうなほど |
| 顔つき | 鼻が低く、大きな目で愛らしい表情 | 不敵な笑みを浮かべ、表情が読めない |
| 印象 | 繊細、優美、上品 | 傲慢、怠惰、不潔感 |
表を見比べると分かる通り、猫王はペルシャ猫の特徴を持ちながらも、それを「堕落させた」ようなデザインになっています。これは、「高貴な地位にありながら、内面が腐敗している権力者」を視覚的に風刺しているとも受け取れます。美しいはずの毛並みがボサボサであることは、彼が自分自身の身だしなみさえ気にしないほど、怠惰な生活を送っていることの証明なのです。
目の色が左右違うオッドアイの謎

猫王の顔をアップで見たとき、最も強烈な印象を残すのがその瞳です。右目と左目で色が異なる「虹彩異色症(ヘテロクロミア)」、通称オッドアイの設定になっています。
オッドアイが象徴する「狂気」と「異界」
一般的に、白猫のオッドアイは「金目銀目」と呼ばれ、日本では縁起が良いとされることもあります。しかし、物語の文脈において、この特徴は「幸運」ではなく、「精神の不安定さ」や「常識の通用しなさ」を象徴する記号として機能しています。
青い目は「冷徹さ」を、黄色や赤みのある目は「欲望」や「本能」を表しているようにも見えます。彼がハルちゃんに対して理不尽な要求を突きつけるとき、この左右非対称の瞳が見開かれることで、私たちは本能的に「この相手とは話が通じない」という恐怖を感じるのです。
猫王のわがままな性格と名言
猫王の性格を一言で表せば、「究極の自己愛」です。彼は悪意を持ってハルちゃんを困らせようとしているわけではありません。本気で「自分の提案は素晴らしい」「相手は喜ぶに決まっている」と思い込んでいるのです。
彼が行う「恩返し」のリストを見てみましょう。
- 家の庭いっぱいの猫じゃらし
- 大量のネズミのプレゼント
- マタタビのゼリー
これらは全て「猫にとっては嬉しいもの」ですが、人間であるハルちゃんにとっては迷惑以外の何物でもありません。ここには「相手の立場で考える」という共感性が完全に欠落しています。これを現代社会に置き換えると、上司が自分の趣味を部下に押し付けるパワーハラスメントや、独りよがりな善意の押し売りに通じるものがあります。
猫王の衝撃的なセリフとメンタリティ
物語の終盤、息子のルーン王子がハルとの結婚をきっぱりと断ったシーンでの一言は、彼の性格を象徴しています。
「いにゃいにゃ……せがれがダメならばわしの妃にならんかにゃ? クッキーでも魚でも何でも好きなものを食べさせてあげるにゃ〜。」
息子がダメなら自分が、というこの切り替えの早さと図太さ。常識や倫理観よりも、「自分の欲望」が最優先される彼の思考回路が見事に表現された名言(迷言)です。
意外な身長や体重のプロフィール

劇中での猫王は、ハルちゃんやバロンに比べてかなり巨大に描かれています。特に怒りを露わにした時や、塔を破壊しようとするシーンでは、まるで怪獣のような威圧感を放ちます。
しかし、生物学的なモデルであるペルシャ猫(チンチラ)の平均的なサイズは以下の通りです。
【参考】一般的なペルシャ猫のサイズ
・体重:3.0kg 〜 5.5kg
・体高:23cm 〜 25cm
現実のモデルは意外と小柄で繊細な猫種なのです。つまり、映画の中でのあの巨大さは、物理的なサイズというよりも、ハルちゃんが感じている「権力の大きさ」や「恐怖心」が投影された、心象風景的な演出である可能性があります。自分の意のままにならないと暴れ出す幼児性と、それを実行できてしまう強大な力が、彼の体をより大きく見せているのかもしれません。
猫の恩返しの王様に関する都市伝説
『猫の恩返し』は子供から大人まで楽しめるファンタジー作品ですが、その裏側には少しドキッとするような設定や、ファンの間で囁かれる都市伝説が存在します。ここからは、作品をより深く味わうための「大人の視点」で猫王の謎に迫ります。
王様の行動が怖いと言われる理由
インターネット上の感想でも、「猫の恩返しの王様が怖い」という声が多く見られます。なぜ、あんなにコミカルな見た目のキャラクターが「怖い」と感じられるのでしょうか。
その最大の理由は、彼の行動が極めてサイコパス的だからです。
ここが怖い!猫王の行動パターン
- 拉致監禁:本人の意思を無視して、強引に猫の国へ連れ去る。
- 人格否定:ハルが「猫になりたくない」と言っても、「猫の方がいいに決まってる」と自分の価値観で否定する。
- 破壊衝動:ハルたちを逃がさないために、躊躇なく自分の城(塔)を爆破し、自国民ごと危険に晒す。
特に塔を爆破するシーンでの狂気に満ちた表情は、トラウマ級のインパクトがあります。「自分のものにならないなら、壊してしまえ」という短絡的かつ暴力的な思考は、現実世界の独裁者やストーカー心理に通じるものがあり、大人の視聴者ほどその恐ろしさを敏感に感じ取ってしまうのです。
耳をすませばと猫王のつながり

ジブリファンには有名な話ですが、『猫の恩返し』は、柊あおいのコミック『バロン 猫の男爵』を原作としつつ、『耳をすませば』の主人公・月島雫が書いた物語という位置づけのスピンオフ作品として企画されています。つまり、猫王というキャラクターは、「中学生の月島雫が想像して作り出した悪役」として捉えることができます。
猫王に込めた想いとは?
『耳をすませば』の中で、雫は自分の進路や才能について深く悩み、葛藤していました。彼女が書いた物語の中に登場するバロンは「理想の自分」「目指すべき大人」の象徴です。対して、猫王はどのような存在でしょうか?
おそらく猫王は、雫の中にある「怠けたい心」や「社会のルールへの反発」が具現化したものではないでしょうか。「勉強なんてしなくていい」「ただ食べて寝ていればいい」という猫の国への誘惑は、受験生である雫自身の「逃げ出したい」という本音の裏返しだったのかもしれません。そう考えると、猫王の存在がより人間臭く、愛おしく感じられてきます。
ムタと王様の関係にある裏設定
物語の重要キャラクターである太った白猫「ムタ(ルナルド・ムーン)」と猫王の間には、浅からぬ因縁があります。実はムタさんは、かつて猫の国で国中の魚、特に湖の魚をすべて食い尽くして逃亡したという、伝説の大犯罪者なのです。猫の国の城の塔には、その出来事を描いた壁画まで残されています。
劇中で猫王がムタさんの正体に気づいた際、一瞬怯えるような反応を見せるシーンがあります。普段は絶対的な権力者として振る舞う王様が、唯一頭が上がらない(そして物理的な力関係でも勝てない)のがムタさんなのです。
「王権」という社会的な力を持つ猫王に対し、「暴力(腕力)」という野生の力を持つムタ。この二人の対比は、管理された社会(猫の国)と、自由気ままなアウトロー(ムタ)の対立構造としても読み解くことができます。
王様の最後やその後の結末とは

物語のクライマックス、ハルちゃんとバロン、そしてムタの活躍によって計画を阻止された猫王。彼は最終的にどのような末路を辿ったのでしょうか?
ディズニー映画などの典型的な勧善懲悪ストーリーであれば、悪役は谷底へ落ちたり、消滅したりします。しかし、猫王は違います。塔の崩壊に巻き込まれ、ボロボロにはなりますが、決して死ぬことはありません。
息子のルーン王子にたしなめられ、側近のナトリと共に「引退します」と宣言させられるものの、その直後にハルちゃんへ求婚しようとするなど、その精神的なタフさは全く衰えていません。結局、彼は「懲りないおじさん」として生き続けるのです。この結末には、「世の中には話の通じない困った人もいるけれど、適度な距離感でやっていくしかない」という、ジブリ作品特有のリアリズムと寛容さが込められているように感じます。
猫王は死亡したのかについて考察
インターネット上では「猫王 死亡」という検索キーワードも見受けられますが、結論として猫王は死んでいません。
確かに高い塔から落下したり、爆発に巻き込まれたりと、普通なら命を落としていてもおかしくない状況でした。しかし、彼は「猫」であり、しかも「王様」です。猫には「9つの命がある」という西洋の言い伝えがあるように、彼の生命力は並外れています。
彼の「死」は肉体的なものではなく、絶対的な権力者としての「王権の失墜」を意味しています。王位を退き、ただの隠居じいさんになること。それこそが、彼にとっての最大の罰であり、物語としての決着だったのでしょう。
猫の恩返しの王様の徹底解説まとめ
今回は、猫の恩返しの王様について、名前やモデルの秘密から、都市伝説的な考察まで詳しく解説してきました。こうして改めて分析してみると、猫王は単なる「物語の悪役」に留まらない、非常に奥深いキャラクターであることが分かります。
記事の要点まとめ
- 名前はシンプルに「猫王」、声優は名優・丹波哲郎さんの怪演が光る
- モデルは高貴な「ペルシャ猫」だが、あえてボサボサに描くことで内面の怠惰を表現
- オッドアイは精神の不安定さや、人間界の常識が通じない異界の象徴
- 『耳をすませば』の雫が生み出した、「怠け心」や「逃避願望」の具現化
- 最後は死なずに引退し、そのしぶとさとバイタリティで生き続ける
大人になってから『猫の恩返し』を見返すと、猫王が提示する「頑張らなくていい世界」の甘い誘惑が、子供の頃よりも魅力的に、そして同時に恐ろしく感じられるかもしれません。私たちが日々戦っている「社会の重圧」や「エゴイズム」を、ユーモアたっぷりに演じてくれている猫王。彼の愛すべき狂気に注目しながら、作品をもう一度楽しんでみてはいかがでしょうか。
※本記事で紹介した考察や都市伝説は、ファンの間での解釈を含みます。作品の詳細なデータや公式情報については、スタジオジブリ公式サイト『猫の恩返し』作品紹介等をご確認ください。

